環境トピックス

胆管がんと印刷現場 環境劣悪 低い順法意識

印刷会社の元従業員らが胆管がんを相次ぎ発症していることを受けて行われた厚生労働省の調査。新たに判明した3人の発症者とともに明らかになったのは、問題発覚のきっかけとなった大阪市の会社をはじめとする印刷現場の劣悪な環境だ。厚労省は今後、法令順守の徹底を図るとともに、発症者の労災認定にも関わる職場環境や使用された化学物質と胆管がん発症の関係について詳細調査を行う。

 ◆刺激臭、マスクなし
 「換気をなんとかしてほしい。このままでは体がもたない」。大阪市の印刷会社では十数年前、当時の従業員の男性が上司に作業場の換気の改善を求めた。
 きっかけは同僚が肝炎で入院したこと。男性は「『洗浄剤のせいちゃうか』と疑ったやつもいたけど、上司にこっぴどく怒られて、だれも何も言わなくなった」と話した。
 問題の作業場は平成3年に完成。地下1階に印刷見本を刷る校正印刷機を7台設置。業務は昼夜2交代制で、印刷機は24時間フル稼働状態だった。印刷機に付着したインキを洗い落とすため、刺激臭の強い有機溶剤を使用し、1回の勤務で300〜千回の洗浄作業を繰り返したが、マスクの着用などはなかったという。
 厚労省はこの会社で12人が発症し、6人が死亡したことを確認。元従業員らの支援を行う関西労働者安全センターによると、ほかにも従業員1人が発症して死亡しているという。

 ◆換気と特定化学物質
 何が問題だったのか。厚労省によると、複数の発症者が確認された大阪市と宮城県の印刷会社で共通していたのが、作業場内の「換気の悪さ」。そして「1、2ジクロロプロパン」という化学物質を洗浄剤として大量使用していたことだ。
 厚労省は今月、大阪市の会社で洗浄作業の再現実験を実施。動物実験で発がん性が指摘されている「1、2ジクロロプロパン」と「ジクロロメタン」を使い、空気中の拡散状況などを調べた。その結果、作業場内では米国の学会が示す平均許容濃度に対し「ジクロロメタン」は2・6〜7・2倍、「1、2ジクロロプロパン」は6〜20倍の数値を検出した。
 有機溶剤中毒を防ぐため国は局所排気装置などの設置を義務付けているが、大阪市の会社は未設置。調査ではマスクを使用していないなどの違反をしている事業所が多いことも明らかになった。厚労省幹部は「印刷現場の順法意識は乏しいと批判されても仕方がない」と憤る。

 ◆労災認定の基準なく
 今後の課題は胆管がん発症者への労災認定だ。すでに全国計8人が労災申請をしているが、胆管がんを理由とした労災認定は過去に例がなく認定基準もない。認定には、労働とがん発症の因果関係を特定しなければならない。厚労省は「印刷会社で使用していた化学物質と胆管がんの因果関係を示すデータはない」と説明。「特定には時間がかかる」とする。
 「5年」という労災請求の時効も立ちはだかる。今回確認された8人の死亡者のうち少なくとも5人は死亡から5年以上経過。東京労働安全衛生センターの飯田勝泰事務局長は「健康影響は胆管がんの多発が証明している。被害の甚大さを考慮し、厚労省は時効を適用しない方針を示してほしい」としている。

yahoo ニュースより引用
産経新聞 7月11日(水)7時55分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120711-00000088-san-soci

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