環境トピックス

  

ポスト京都 外交戦熱く

― 欧米中主導、かすむ日本 ―

土壇場で欧米が組んだ京都会議の再現か、温暖化ガスの二大排出国である米中が手を結ぶのか。京都議定書に続く世界の地球温暖化対策の枠組み作りは今年12月が交渉期限。各国・社会に大きな影響を及ぼす「ポスト京都」の外交戦は年初から熱を帯びる。

最初の大きな節目が1月21日の米新政権発足だ。

「気候変動問題で国際的なリーダーシップを発揮する」。オバマ米次期大統領はエネルギー・気候変動担当の大統領補佐官ポストを新設した。内定したのはキャロル・ブラウナー氏(52)。クリントン前政権で閣僚級の環境保全局(EPA)長官を8年努め、気候変動問題の筋金入りのプロとして名高い。温暖化ガス排出の積極的な規制論者で、議会関係者やエネルギー業界にも顔が利く。環境問題の論客として知られるアル・ゴア前副大統領とは、上院議員時代のゴア氏の立法スタッフを務めた間柄だ。米国は積極的な排出削減へかじを切る可能性がある。

温暖化交渉に意欲的な欧州連合(EU)を率いるのはディマス欧州委員(環境担当、64)。「12月のコペンハーゲン会議でかならず合意する」と意欲を示す。EUは2020年に温暖化ガスの排出を1990年比で20%削減することを昨年12月、正式に決めた。「ほかの先進国が同水準の削減をすれば、EUは30%にまで引き上げる」と日米に同調を迫る。

オバマ氏が示した米国の新目標については「EU型排出量取引制度の導入や、50年の国内排出量を90年比80%削減を約束したのは重要だ」と一定の評価を与える。ブラウナー、ディマス両氏が歩み寄れば、排出削減に消極的な日本は取り残され米欧主導で交渉が進む恐れがある。

米国とはぼ並ぶ世界最大の排出国となった中国は、途上国の立場を最大限に利用して数値目標の割り当てを拒み続ける。キーパーソンとなる中国の周生賢・環境保護相(59)は「一人あたりの二酸化炭素(CO2)排出量や歴史的責任を考えれば、先進国から削減目標を示すべきだ」と持論を主張する。胡錦濤指導部の最大の懸案は経済成長の維持。中国内の企業に悪影響を与える削減目標は先送りする交渉方針だ。環境問題にも力を入れる姿勢を示すが、あくまでも内需喚起の一環の位置づけ。周環境相は「3年間で1兆元を集め、原子力などの産業育成に投じる」と述べた。環境を材料に海外事業の投資を呼び込む狙いとみられる。

「米中が水面下で合意してしまうことが一番怖い」と日本政府の交渉関係者は明かす。ポスト議定書は途上国への環境投資を促すルールなども定めている。世界の二大排出国である米中が、双方にうまみのある枠組みで話をつけてしまえば、日本の主張などはかき消され交渉は一気に進む。97年の京都議定書策定を巡る交渉では最終段階で米欧が合意し、日本が蚊帳の外のまま数値目標が決まった。各国・地域が国益を賭ける「ポスト京都」のパワーゲーム。不利なシナリオも予想される日本は、戦略的な交渉力が求められる。

(H21.1.14 日経)


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